自治体DXとは?成功につなげるためのポイント・先進事例を紹介

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波はさまざまな業界に広がっており、行政サービスの分野も例外ではありません。特に地方自治体においては、少子高齢化や人口減少、財政難といった課題を抱えるなかで、住民サービスの向上と業務効率化を両立するためのDX推進が急務となっています。

一方で、自治体がDXを推進するためには、予算や人材の不足、既存システムとの連携の難しさ、庁内の意識改革など、多くの課題が立ちはだかります。本稿では、自治体DXについての概要や必要性、自治体DXを阻む課題、推進のためのポイントを解説します。

自治体DXとは?

民間企業だけでなく、各地方自治体においてもDXの取り組みは加速しています。自治体DXの概要と必要性を解説します。

自治体DXの概要

自治体DXとは、地方自治体がITやその他の最新技術を活用して業務効率化や生産性向上を進め、住民の利便性や行政サービスの維持・向上を目指す取り組みです。

総務省では、政府として目指すべきデジタル社会の実現に向けて、自治体DXについては以下を求める取り組みとして位置づけています。

  • 自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる
  • デジタル技術やAIなどの活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスのさらなる向上につなげていく
  • データの様式の統一化などを図りつつ、多様な主体によるデータの円滑な流通を促進することによって、EBPM等により自らの行政の効率化・高度化を図る
  • 多様な主体との連携により民間のデジタル・ビジネスなど新たな価値などが創出される

ICTの発展により、ペーパーレス化やクラウドなどを自治体業務に活用しやすくなった社会背景もあり、自治体DXの取り組みが浸透してきています。
総務省の自治体DX推進計画では、自治体が重点的に取り組むべき7つの事項を下記のように定めており、各自治体では民間企業と連携しながら、DXを進めています。

  • 1. 自治体フロントヤード改革の推進
  • 2. 自治体の情報システムの標準化・共通化
  • 3. 公金収納におけるeLTAXの活用
  • 4. マイナンバーカードの普及促進・利用の推進
  • 5. セキュリティ対策の徹底
  • 6. 自治体のAI・RPAの利用推進
  • 7. テレワークの推進

なお、「1.自治体フロントヤード改革の推進」とは、簡単に言うと地域住民との接点をデジタル化していくことを指します。

自治体DXを行う目的と必要性

団塊ジュニア世代が65歳以上に突入し、現役世代が急減することで引き起こされる「2040年問題」は年々現実味を帯びてきています。一方で、自治体の担うべき公共交通、福祉、インフラ維持管理など、地域住民の暮らしを支えるサービス機能は変わらず維持する必要があります。

そのため、限られた人数の職員で自治体の担うべき業務・機能を発揮できるように、業務を効率化・デジタル化することが求められています。あわせて、地域住民へのサービス向上と自治体としての発展に向けては、既存業務の改善だけでなく、データの利活用による新たな価値創造も視野に入れながら、抜本的な変革に向けたDXを進めていくことが、今後はより重要となるでしょう。

自治体DXのもたらすメリット

自治体がDXに取り組む主なメリットには、以下があげられます。

  • 行政の業務効率化、迅速化、正確性の向上
  • 住民の利便性・満足度の向上
  • 書類紛失・誤配などセキュリティリスクの低減
  • 地域社会全体のDX推進、地域経済の発展
  • 自治体内、市民とのコミュニケーション活性化
  • 行政の透明性と信頼性の向上

自治体DXを進めることで、自治体行政側へのメリットがあるのはもちろん、地域住民への効果も期待できます。

自治体DXが進まない理由・課題

自治体DXの必要性やメリットを理解していたとしても、現実問題としてDXを進められないという自治体は多くあります。
ここでは、自治体DXが進まない代表的な理由・課題を3つ紹介します。

予算や人材などリソースの不足

総務省が発表した『地方公共団体の総職員数の推移』によると、令和5年時点での総職員数は平成6年のピーク時に比べると、約48万人減少(約15%減)しています。少子高齢化により地方公務員の「なり手不足」がますます深刻となる一方で、住民の高齢化や過疎化への対応など1人当たりの業務量は増加しています。
目先の業務で手いっぱいになるあまり、DXを実現するために必要な「業務の見直し」「システムの刷新」「組織体制の改革」などにかけられるリソースが不足していることがDX推進を阻む要因のひとつです。

また、DX推進に求められる人材は、デジタル技術やデータ活用に精通した人材であること。さらに、自治体における行政業務に精通しつつ、デジタル化やDX実現への取り組みをリードする人材であることが求められます。自治体業務のDX化に向けて、システムデザインの設計や運用ができる人材採用・育成が難しいことも、自治体DXが進まない原因のひとつと言えるでしょう。


*DX人材について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事 DX人材とは?必要な技術や知識について解説

既存システムのブラックボックス化

既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化していることがDX実現を妨げている場合もあります。

ブラックボックス化したシステムは、そのプログラム・機能を理解し、解析するために多大な費用や時間がかかります。また、全面的なシステム刷新を計画したとしても、新システムに求められる要件を正確に提示し、関係者との合意形成、システム開発・移行を行うには多くのリソースが必要となります。
そのため、「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「レガシーシステムとのデータ連携が困難」「既存業務への影響がわからない」などのブラックボックス化は、DX推進が鈍化する原因となるのです。

組織内の意識が保守的

デジタル化が浸透しておらず、紙による行政手続きを行うといったアナログ文化・慣習が根強く残っている組織ほど反発も多く、DXはスムーズに進みにくい傾向にあります。

自治体内部の反発は、現場からだけでなく管理者・責任者からのどちらのケースも存在します。「新ツールについていけないのでは」「今のやり方に不満がない・十分」「自分の仕事がなくなるのでは」「自組織内に導入するのは時期尚早」「責任を取りたくない」などが具体例として挙げられるでしょう。

DX実現に向けた施策実行と並行して、職員に対してDXの必要性やメリットを丁寧に伝え、理解を促していくことが重要です。

自治体DXの成功ポイント

自治体DXを推進するためには、以下のようなアプローチが有効となります。

組織内にDXの重要性を浸透させる

トップから現場の担当者までDXに対する考え方・方針をそろえ、組織全体で一体感を持ってDXを推進できる体制づくりが重要です。
職員間で連携が取れていなければ、組織内での対立を生み、住民への行政サービス提供に支障が出る恐れもあります。自治体行政の最適化によってより良い住民サービスを提供するという目的を組織内で共有し、職員の意識改革を行ったうえでDXを推進させましょう。

DX人材(デジタル人材)を採用・育成する

DX推進において、デジタル人材は不可欠です。ITリテラシーにたけた外部人材の新規採用、および既存職員のリスキリングにより、デジタル人材を確保することは急務だと言えるでしょう。

ただし、アナログ業務が中心の自治体においては、組織内にデジタル人材がほとんどいないというところも少なくありません。民間企業向けの調査結果であるものの、『令和3年 情報通信白書』でもDXを進める際の課題として、半数以上の企業が「人材不足」を挙げています。
そのため、デジタル人材の採用・育成を全て自治体内で完結させるのではなく、外部企業の協力を得ながら進めることも必要な考え方です。

長期的な計画を立てる

アナログ業務が定着している自治体ではDXに対する抜本的な意識改革が必要となるため、最終的な組織変革を実現するためには多くの時間やコストがかかるのは必然です。短期の目標を立てるだけでは効果が見えづらいことから、組織内のモチベーションも下がりやすく、DXに疑問を持つ職員が出てくる恐れもあります。
そこで、トップダウンによる長期的な計画を策定し、段階的にDXを実現していくことが重要です。参照できるものとして、総務省から大枠のスケジュールが展開されているため、自治体の状況に合わせて詳細のスケジュールを立てていきましょう。

また、ボトムアップのアプローチとして、スモールスタートで身近な業務改善に取り組むことを推奨するのも効果的です。DXによる成功体験を少しずつ積み上げることで、組織内のDXに対する機運が高まり、一体感を持ってDXを実現しやすくなります。

先進事例から学ぶ

DXのイメージをつかむためには、ほかの自治体における先進事例を知ることがおすすめです。自分の自治体にそのまま、もしくは少しのカスタマイズで適用できる可能性もあり、特にDXを推進する初期段階では、全体の方向性を見いだすのに役立ちます。

先進事例から学ぶ自治体DX【事例紹介】

富山県魚津市―エリアデータの利活用

富山県魚津市では「都市部への人口流出、少子高齢化による地域の担い手不足」という課題に対して「魚津モデルスマートシティ」を掲げ、DX推進に取り組んできました。
具体的には、地域の暮らしに沿ったデータ活用を進めるためのデータ連携基盤を構築し、センサによる河川水位・積雪深・アンダーパスの冠水監視などの「防災」や、GPSセンサを活用した登下校時の見守りといった「防犯」で施策実行・検討を進めています。


*こちらの事例の詳細は、導入事例をご覧ください。

導入事例 魚津モデルスマートシティを支えるデータ連携基盤として自治体向けIoTプラットフォームの活用で行政運営を効率化

*スマートシティの事例については、こちらの記事もご覧ください。

関連記事 国内外のスマートシティの事例17選!推進のポイントや失敗例を紹介

富山県―生成AIおよびマルチモーダルAIの活用

富山県では、ChatGPTといった生成AIや言語、画像、音声、動画などの多様な情報を扱うマルチモーダルAIを活用し、自治体職員の書類検索の効率化・働き方改革を推進するための実証実験を行いました。
具体的には書類のデータ化、書類検索、データ活用の3プロセスについて検証を行いました。


*こちらの事例の詳細は、関連記事をご覧ください。

関連記事 生成AIとマルチモーダルAIを組み合わせたデータ利活用の実証実験を通じて、「一歩先の自治体DX」を検証!
ペーパーレスや電子化による「書類DX」の先は、業務の在り方から見直す「業務DX」の時代へ

関連記事 インテック、富山県と生成AIおよびマルチモーダルAIを活用した働き方改革の実証実験を実施
~複雑化・多様化する自治体職員業務の効率化検証~

富山県高岡市―校務のクラウド化

富山県高岡市では、校外から校務ができるように、統合型校務支援システム・校務用クラウドストレージサービスを構築しました。
統合型校務支援システムにより、名簿、出席簿、通知表、指導要録の作成、出勤簿の管理などが可能となり、クラウドストレージサービスでは、各学校のサーバーと同じようにファイルを共有・利用できます。子育てや介護と仕事の両立や、先のコロナ禍のような事態にも柔軟に対応できたり、業務効率化により前年同月と比較すると導入後の時間外勤務が減少したりと、大きな効果が得られました。


*こちらの事例の詳細は、導入事例をご覧ください。

導入事例 最新版文部科学省セキュリティガイドラインに則した校務のクラウド化で、教職員の働き方が変化!
支えるのは「技術・制度・運用が揃った教育情報セキュリティ管理基準」と「インテックの技術力」

*校務のクラウド化については、こちらの記事もご覧ください。

関連記事 校務のクラウド化による学校運営の効率化とセキュリティの重要性とは?

自治体DXを推進し、大きな成果につなげよう

自治体DXは、持続可能な地域社会の実現に向けた第一歩です。
ただし、自治体DXを阻む課題は山積みで、特にDXを推進できるデジタル人材の確保は苦戦している自治体が多いのが現状です。そこで、行政だけでなく民間企業を巻き込みながら、一丸となってDX実現に取り組むことが重要と言えます。

インテックは「総合行政情報システム(CIVION)」をはじめ、さまざまなサービス・ソリューションを保有しています。全国の拠点で地方から大都市まで幅広くDX推進を支援してきた実績・ノウハウを活用し、各自治体の特性に合わせた取り組み支援を強みとしていますので、ぜひお気軽にお問合せください。


*『自治体DXに関連する商品・サービス』は、こちらのページをご覧ください

今、求められている公共・行政機関のDX推進

公開日 2024年06月28日

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