マルチクラウド徹底解説 ― メリットや注意点・最適な活用方法を紹介
クラウドサービスの普及が進むにつれて、複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用する「マルチクラウド」を採用する企業も増加しています。それぞれのクラウドサービスの強みを活かせる一方で、導入運用にあたって注意すべきポイントもあります。
この記事では、マルチクラウドの基礎概念を解説するとともに、マルチクラウド活用のために気を付けたいポイントを紹介します。
マルチクラウドとは
マルチクラウドは複数のクラウドサービスを組み合わせた運用形態を指します。クラウドは、大きく「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」の2種類に分かれますが、マルチクラウドはそれぞれの強みを活かしながら、自社ニーズにあった最適な利用環境を構築できる方式です。
使いたいときに、使いたいだけ利用できるクラウドは、利便性の高さが魅力であり、マルチクラウドでは各クラウドサービスの強みや得意分野を組み合わせ、最適なシステム運用環境を構築できます。デジタル庁のガバメントクラウドでもマルチクラウド化を重視しており、サービス規模の大きい企業はもちろん、マルチクラウドを採用している企業は年々増加しています。
ハイブリッドクラウドとの違い
クラウドを組み合わせた利用形態として、マルチクラウドと同じような意味で「ハイブリッドクラウド」が使われることもあります。利用状況によってはハイブリッドクラウドがマルチクラウドとなる場合もありますが、厳密に言うとハイブリッドクラウドは2つ以上の異なるインフラ構成を組み合わせた利用形態です。
たとえば、パブリッククラウド×オンプレミス、パブリッククラウド×プライベートクラウドなどはハイブリッドクラウドですが、複数のパブリッククラウドを組み合わせる構成を狭義にはハイブリッドクラウドと言いません。
マルチクラウドの3つのメリット・特徴
マルチクラウドを採用することで得られるメリットを3つ紹介します。
①柔軟性と拡張性の向上
マルチクラウドでは、複数のパブリッククラウドを併用するので、自社ニーズに合わせて以下のような要件を柔軟にカスタマイズすることができます。
- パブリッククラウドのパフォーマンス
- 速度
- 信頼性
- 地理的位置
- セキュリティ
- コンプライアンス など
単一サービスを使っているだけではクラウドサービスの制約を受けるため、柔軟性やカスタマイズ性は低くなりますが、マルチクラウドにすることで各サービスのデメリットをカバーできます。
例えば、「高機能で世界中のリージョンを持つ○○」サービスをメインに使いつつ、大量データを扱う領域では「データ分析や機械学習に強みをもつ○○サービス」を組み合わせるなど、それぞれのデメリットを最小化しつつ、強みを「いいとこどり」することで、自社にあった最適な利用構成の構築が可能です。
ベンダーロックインの回避
ベンダーロックインとは特定のクラウドベンダーとその提供機能・技術に依存してしまうことで、システムとしての柔軟性が失われることを指します。ベンダーロックインの状態では他の同じようなサービス・製品への移行は困難ですが、マルチクラウドの構成であればビジネスニーズにあわせて柔軟にサービスを乗り換えることも可能となります。
③リスク対策(信頼性と冗長性の向上)
マルチクラウドで複数サービスを併用することにより、仮に1つのサービスで障害が発生した場合も別のクラウドサービスへ即座に切り替えて事業継続が可能となります。マルチクラウドはリスクの分散・軽減を目的としたBCPやDR対策としても有効です。
マルチクラウドの活用例
マルチクラウドをビジネスに活用する企業は多くあります。ここでは実際の活用例を2つ紹介します。
国内外に拠点を持つグローバル企業のクラウド最適化
国ごとのルールや慣習にあわせるため、国や拠点ごとにパブリッククラウドを使い分ける事例です。
特に、個人情報の取り扱いについては、各国の法律・ルールに従う必要があるため、最適なパブリッククラウドを選択しやすいのもマルチクラウドのメリットでしょう。
ECサイトやチケット予約サイト
柔軟にスペック増強ができるクラウドサービスは、ECサイトやチケット予約サイトと相性の良いサービスです。ECサイトやチケット予約サイトは一時的なアクセス集中で突発的にシステムへの負荷がかかりやすいものの、クラウドの柔軟性・拡張性を活かすことで、システムダウンによる大きな機会損失を防げます。
実際に、より高い可用性・耐障害性を求める企業では、複数のパブリッククラウドを併用してマルチクラウド化されています。システムを冗長化することで、メインのシステムがダウンした場合でも、即座に別のパブリッククラウドに切り替え、被害を最小限に抑えることが可能です。
マルチクラウド導入・活用時の注意点
マルチクラウドの導入・活用をスムーズに行うために注意点を4つ紹介します。
コストや運用負荷の増大
マルチクラウドでは複数のクラウドサービスを組み合わせるので、サービス利用料が高額になったり、システム構成の複雑性が増すことから運用負荷が増大したりといったデメリットがあります。適切に運用設計やベンダー選定をすることが重要です。
ID運用管理の複雑化
クラウドサービスごとにID管理が必要となるため、マルチクラウド化すると管理対象のIDも増加してしまいます。
マルチクラウドで煩雑になりがちなID運用管理を効率化するためには、ID管理・認証サービスであるシングルサインオン(SSO)を利用するのも1つの選択肢です。IDを一括で管理することで運用コストが軽減できるだけでなく、クラウドサービスへ連携するID管理と認証ポリシーを統一できるため、セキュリティ強化も実現します。
また、シングルサインオン(SSO)で一元管理ができれば、システム利用者は1回の認証で複数のクラウドサービスを利用することが可能となるため、利用者の利便性向上にもつながるでしょう。
セキュリティリスクの増大
利用するクラウドサービスが増えるほど、セキュリティ面の懸念も高まります。クラウドサービスごとのセキュリティ基準にばらつきがあれば、システム全体としてセキュリティポリシー・強度が統一されず、セキュリティリスクにつながりかねません。
マルチクラウドを利用するのであれば、セキュリティリスクが増大することを念頭に置いたうえで強固な対策が不可欠です。
システム間連携とデータ連携の複雑化
利用するクラウドサービスが増えると、システムが分散配置されることになります。システム間は共通で使用するデータを一カ所で保存したり、システム間で処理を分担していたりと、相互間のデータの受け渡しやデータ参照が高頻度で発生するため、高品質なネットワーク確保が重要です。
複数のクラウドサービスをフレキシブルに接続できる、マルチクラウドHubのようなネットワークサービスの導入もあわせて検討しましょう。
マルチクラウド導入の手順とポイント
マルチクラウド化はあくまでも手段であり、明確なビジネス成果を目標に掲げておくことが重要です。
まずはマルチクラウド化を進めたい背景やニーズを整理し、利用用途や目的を明らかにしておきましょう。たとえば、「リスク分散のためにメインサービスのバックアップ環境を構築したい」「AIやデータ分析・IoTなど特定の分野を強化したい」など、ニーズにあわせて最適なクラウドサービスを選択します。
クラウド選定後は、クラウド移行計画を策定し、スムーズに移行できるように入念な準備が欠かせません。また、移行後も定期的に利用状況を確認し、課題があれば都度改善していくことで最適なシステム環境構築が実現できます。
マルチクラウドを活用し、ビジネス成長につなげよう
パブリッククラウドごとのメリットを最大限活用し、デメリットをカバーできるマルチクラウドは多くの企業にとって魅力的な選択肢となりますが、コスト面や運用工数、セキュリティなど注意すべき点も多くあります。導入にあたってはマルチクラウド化のニーズを明確にしたうえで、ニーズにあった最適なクラウドベンダー選定はもちろん、導入後も各クラウドサービスの管理や運用監視、セキュリティ強化など、きめ細かな対策が欠かせません。
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公開日 2024年09月10日
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