SCMを支える部品調達EDI基盤のクラウド移行で、BCP対策に成功
三菱自動車工業株式会社様
- ※TIS株式会社のEDI事業は2020年4月1日を期して株式会社インテックへ会社分割(吸収分割)により承継しました。
- ※掲載内容は取材当時の社名、製品名で記載されています。
次世代エコカーの本命と目される電気自動車をいち早く量産開始し、国内外で存在感を示す三菱自動車。SCMを支える部品調達EDIのBCP対策を強化すべく、クラウドへの移行の検討を開始した。EDIの安定稼働を絶対視する同社が選択したのが、信頼性に優れた企業向け高品質クラウド「T.E.O.S.」を基盤としたSaaS型EDI「T.EDI.O.S.」であった。
課題
日本中からEDIで自動車部品を調達
世界的に省エネルギー志向が高まる中、究極のエコカーとして注目される電気自動車(EV)。ハイブリッド車との一番の違いは、エンジンを搭載しておらず、すべての駆動を電気モーターで行う仕組みだ。国内自動車メーカーの中でも、三菱自動車工業株式会社(以下、三菱自動車)のEV戦略は、世界の最先端を走り続けている。
2009年には、業界に先駆けて普及型の電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」の量産を開始。携帯電話のように家庭用コンセントでも充電可能で、200万円を切る実質負担額(補助金適用の場合)は、業界内外から大きな注目を集めている。
このように、止まることなく進化を続ける自動車は、膨大な部品の集合体。その生産ラインを根底から支えているのが、全国の取引先(サプライヤー)から必要な部品を調達するEDIだ。
管理本部生産・販売IT部の藤本正和担当部長は、三菱自動車の部品調達EDIについて、次のように語る。「当社のEDIには、国内数百社のお取引先さまが登録されています。国内3カ所の当社生産工場での生産計画を決定後、EDI経由で指定のお取引先さまへ部品を発注。お取引先さま側では、基幹サーバやパソコンなどで注文の確認を行う仕組みです。自動車組み立てに必要なタイヤ、ガラス、シートなどはもちろん、小さなネジ1本までEDIを通じて発注が行われています」。
EDI
Electronic Data Interchangeの略。電子的な商取引の総称。
BCP対策に適したクラウドが急浮上
三菱自動車の部品調達EDIの歴史は、1989年にさかのぼる。当初はVAN方式からスタートし、その後、ホストのダウンサイジング化、Web EDI対応などの大がかりな改良を図りつつ、生産ラインを支える要として安定運用を続けてきた。さらに同社では、東海大地震の発生リスクに備えるため、2007年の時点でEDIのBCP(事業継続計画)対策に着手している。
管理本部生産・販売IT部の伊藤寛マネージャーは、BCP対策の取り組みについて、次のように語る。「国内の自動車メーカーは、過剰な部品の在庫を抱えない生産方式になっており、生産ラインを何日も維持できる部品の数はストックしていません。そのため、地震による生産活動への影響をより確実に回避するには、さらなるBCP対策の強化が必要だと感じていました。また、EDIの安定運用は、提携するお取引先さまの業務を守ることにもつながります」。
より確実なBCP対策を模索するなか、三菱自動車が着目したのが、当時、話題にのぼりはじめていたクラウドであった。
伊藤マネージャーは次のように語る。「耐震構造など災害対策が施されたデータセンターでシステムの運用を行うことから、クラウドは当時からBCP対策に適しているといわれていました。また、技術上、距離の離れた複数のデータセンターでのバックアップ環境の構築が容易であり、大規模災害に備える基盤としての可能性を感じました」。
選択
三菱自動車のEDIを支えてきたTIS
2010年に入り、EDIを移行するプラットフォームの候補の1つとして、本格的にクラウドに関する情報収集を開始。そこで、クラウドの最新技術の情報提供に努めたのが、TISであった。TISは、1989年に三菱自動車初のEDIがスタートして以来、現在に至るまで、システム構築および保守運用業務を担当していた。
「TISの前身である(株)東洋情報システムの時代から、長いお付き合いを重ねており、その技術力に大きな信頼を寄せています。そこで、今回もクラウド化の可能性について、TISの技術者からアドバイスをいただくことにしました」(藤本担当部長)。
実は、当時の三菱自動車社内では、クラウドについて期待よりも不安の方が大きかったという。「以前は、システムを安定運用し、バックアップ体制を構築するには、まず高性能サーバを何台用意するか、という計画からスタートしていました。ところがクラウドでは、データセンターの仮想サーバ上ですべての業務運用を行うことから、信頼性に不安はないのか、と疑心暗鬼なところはありました」(藤本担当部長)。
ちょうどその頃、TISでは2010年7月より、企業向けクラウド基盤「TIS Enterprise Ondemand Service」(通称 T.E.O.S.)」をスタート。三菱自動車への提案も、この「T.E.O.S.」をベースに行われることになった。「T.E.O.S.」は、一般的なパブリッククラウドとは一線を画す、企業用途に特化したクラウドサービス。データセンターを通じて、企業へ仮想マシン、およびOS環境を提供する、IaaS型のサービスである。TISが培ってきた大規模システムの開発・運用のノウハウが注ぎ込まれ、業務基盤としての使用に適した堅牢性を備えている。
信頼性に優れた高品質クラウドに期待
藤本担当部長は、TIS担当者から説明を受けた「T.E.O.S.」の第一印象についてこう語る。「『T.E.O.S.』は、最初からエンタープライズ向けに開発されたクラウドサービスであり、これまでのパブリッククラウドを大きく上回る信頼性の高さを感じました」。
TISでは、BCP対策への適性についても説明。特に、藤本担当部長が興味を持ったのは、万が一、データセンターの仮想サーバが停止してしまった場合に直ちに他の仮想サーバへと切り替わる障害対策の優秀さ、そして、地域災害発生時のDR(ディザスタリカバリ)の拡張が可能であるという点であった。
「たとえば、平常時は東京データセンターでサーバを運用し、非常時のみ、大阪のデータセンターでバックアップシステムを稼働させることができると分かりました。当社専用の物理的なサーバを2カ所に常設するのではなく、仮想サーバを組み合わせることで、コスト的にも安上がりにDRシステムが構築できることになります」(藤本担当部長)。
また、クラウドは設備を"必要なときに必要なだけ"使用することにより、システム構築・運用にかかるコストを大幅に抑えることができる。
「BCP対策はもちろん急務ですが、そのためにEDIの運用コストが増えてしまうのは避けなければいけません。クラウド基盤への移行は、コスト削減というメリットも大きく、『T.E.O.S.』は非常に魅力的でした」(藤本担当部長)。
導入
渡りに船となった、SaaS 型EDIの登場
クラウド基盤『T.E.O.S.』の品質については、導入の条件に申し分なし。だが、クラウド化を実現するためには、もう一つ解決しなければならない大きな課題があった。それは、従来採用されていたEDIパッケージ製品「ACMS」(株式会社データ・アプリケーション提供)が、そのままではクラウド上で使用できないという問題だった。「この『ACMS』は、国内で最もメジャーなEDIのパッケージ製品であり、当社でも10年以上利用してきました。使いやすさと安定性には信頼を寄せており、別のクラウド対応のEDI製品へ移行するという選択肢は考えられませんでした」(伊藤マネージャー)。
そして、2010年も終わりかけた頃、TISの担当者から朗報がもたらされた。
「近々、TISがデータ・アプリケーション社と協力して、『ACMS』をクラウド対応のSaaSとして提供を開始するという情報でした」(伊藤マネージャー)。これは、パッケージ製品である「ACMS」のほとんどの機能をそのまま、クラウドを通じてSaaSとして提供するサービス。TISは、数多くの企業で「ACMS」によるEDI構築を支援してきた実績を持つ。このSaaS版「ACMS」は、クラウドの普及を見越し、顧客企業のEDIのクラウド移行を支援する目的で、開発に取り組んでいたものだった。
これは、三菱自動車にとって、まさに渡りに船とも言える情報であった。これで、導入の障壁はクリアされ、同社は2011年1月、「ACMS」をTISのクラウド基盤「T.E.O.S.」上で稼働させるSaaS型EDI「TIS EDI Ondemand Service by ACMS」(通称 T.EDI.O.S.)の導入を決定した。
取引先に負担をかけずにシステム移行
こうして2011年2月、部品調達EDIを「T.E.O.S.」上に移行するプロジェクトがスタート。開発・移行期間として約6カ月が予定された。途中、3月11日に東日本大震災という未曾有の災害が日本を襲ったが、TISのデータセンターには被害が及ばず、プロジェクトは大きな影響なく進められた。
移行プロジェクトのゴールとなる新システムへの切り替えは、生産ラインおよび取引先が盆休みとなる8月13日から3日間をかけて実施。既存のオンプレミス型のEDIから、クラウド型EDIへと大がかりな移行であったが、取引先への影響はまったくなかったと伊藤マネージャーはいう。
「お取引先さまから当社EDIへは、専用線などで直接乗り入れる方式ではなく、自動車業界共通のネットワークJNXや、インターネットを経由して接続いただいていますが、何らかの影響が及ぶことを懸念していました。しかし、TISがネットワーク間の接続を適切に処理してくれたことで、影響は皆無。お取引先さまに新たな設備投資や、操作手順の変更などの負担をかけることなく、システム移行できたことに、たいへん満足しています」。
成果
仮想サーバならではの優れた耐障害性
2011年8月16日、クラウドサービス「T.E.O.S.」を基盤とした「T.EDI.O.S.」で、三菱自動車の部品調達EDIが稼働を開始。藤本担当部長は次のように語る。「サーバをメンテナンスする際にも、稼働中の仮想サーバの停止と同時に、直ちに別の仮想サーバへと切り替わるため、EDIの稼働が止まることはありません。当社とお取引先さまをつなぐ重要な役割を担うサービスとして信頼を深めています」。
また、クラウドのもう1つのメリットであるコスト削減効果については、こう語る。「今回のクラウド移行費と今後3年分の運用費を合計しても、従来システムを3年間運用した場合と比べ、約2割コストを抑えられると試算しています。今後、国内の自動車業界は円高、国際間競争などに対応するため、様々なコスト削減の対策をとらざるを得ませんが、クラウド化は1つの有効手段になることを認識しました」(藤本担当部長)。
取引先の急増にも柔軟に対応
三菱自動車は、TISのクラウド「T.E.O.S.」の拡張性についても高く評価する。「当社では電気自動車を戦略の中心に位置付けており、電気自動車に必要なリチウムイオン電池、モーターなどを供給する新たなお取引先さまの数も急増。『T.E.O.S.』は、最短30分で高速なCPU、メモリ、ディスク追加など仮想サーバの処理能力を増強できるので、EDI上で処理するデータ量が急増した際にも柔軟に対応できます」(藤本担当部長)。
今回のEDIのクラウド移行を終え、藤本担当部長は次のように語る。「導入前には、本当にクラウドが業務に直結した重要なシステムに使えるのか、と思っていましたが、その心配は払拭されました。導入後、トラブルはあったものの、TISの素早い対応により現在は安定しています。また、EDIパッケージ製品『ACMS』のSaaS対応に着手していたTISのサポート力・機動力があってこそ、当社のクラウド移行が成功したのは間違いありません」。
製造業にとって、部品・原材料を調達するためのEDIは生命線ともいえる存在。社内のレガシーEDIの刷新やXML-EDI等の最新EDIの導入を検討している企業にとって、TISのクラウドサービス「T.E.O.S.」を基盤としたとSaaS型EDI「T.EDI.O.S.」は最良のソリューションとなるはずだ。
お客さまの声
三菱自動車工業株式会社
管理本部
生産・販売IT部 担当部長 藤本 正和氏
自動車製造業界では、既に、より扱いやすくセキュアな次世代EDI規格「XML/EDI」対応も視野に入ってきています。当社ではEDIには最新の技術・仕様を反映し、よりお取引先さまが安心してお使いいただけるよう、進化させていきたいと考えています。TISには、次世代EDI対応においても、経験とノウハウを活かして提案・ご協力いただきたいと思います。
三菱自動車工業株式会社
管理本部
生産・販売IT部 マネージャー 伊藤 寛氏
TISと当社は、初めてEDIを開始して以来の長い関係であり、多大な信頼感を抱いています。今回のクラウド基盤を利用したSaaS型EDIの導入により、BCP対策はもちろんですが、運用コストの削減ができたことも、たいへん満足しています。
部品調達EDIは、多くのお取引先さまと当社をつなぐ生命線となるシステムだけに、今後ともTISの安全性・信頼性に優れた運用に期待しています。
担当者から
三菱自動車様には、1989年より継続してEDIの構築・運用についてTISをご指名いただき、心より感謝いたします。
今回ご導入いただいたソリューションは、国内シェアトップのEDIパッケージ製品「ACMS」を、TISのクラウド基盤「T.E.O.S.」を通じてSaaS型サービスとして提供するという、国内初の案件となりました。
なお、このSaaS型EDIは、2011年6月より「TIS EDI Ondemand Service by ACMS」として提供を行っています。製造業はもちろん、流通業界のEDI標準である流通BMSにも対応可能です。現在運用中のEDIをクラウド環境へ移行されたいお客さま企業へ、ぜひお勧めいたします。
- ※会社名、商品名、サービス名は各社の商標またはサービスマークです。
Client Profile 三菱自動車工業株式会社様
会社名 | 三菱自動車工業株式会社 |
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設立 | 1970年 |
事業内容 | 自動車及び同部品・付属品の開発、製造、販売、輸出入 他 |
URL | http://www.mitsubishi-motors.co.jp/ |
- ※TIS株式会社のEDI事業は2020年4月1日を期して株式会社インテックへ会社分割(吸収分割)により承継しました。
- ※掲載内容は取材当時の社名、製品名で記載されています。
公開日 2020年04月01日
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