病理検体の所在不明リスクの低減、検体確認の作業効率化を目指し
医療情報連携プラットフォームを活用しFHIRを用いた
病理検体トレーサビリティ情報記録システムの構築を支援
公益財団法人がん研究会 有明病院様
公益財団法人がん研究会 有明病院は、電子カルテの情報を自動で収集・管理する統合がん臨床データベース(以下、統合DB)を構築し、医療データの利活用を推進しています。2022年には医療業務の効率化に向けてInterSystems社のInterSystems IRIS for Health(以下、IRIS)を導入。インテックとともに病理検体のトレーサビリティ向上に向けたシステムを開発しました。同院の顧問/医療情報部 部長の小口正彦氏と医療情報部 副部長/データベース開発室 室長の鈴木一洋氏にお話を伺いました。
課題
医療安全向上のため病理検体のトレーサビリティ情報を記録・管理したい
── まず医療情報部について教えてください。
小口:
従来、院内システムの開発は外部ベンダーに頼っていましたが、医療情報を財産として引き継いでいくには、自分たちでシステムを開発する必要があると考え、2022年に医療情報部を設置しました。診療情報管理室、データベース開発室、AI医療推進室の3つのセクションがあります。医療情報システムの選定にあたり検討すべき事項は、非常に多岐にわたります。その中でも、旧システムでカスタマイズした機能とデータが技術的あるいは金銭的な理由により、新システムに引継ぐことが困難なケースが多いと感じます。これまで蓄積してきた医療情報を財産として残すには大きな課題があり、この問題を解消したいという思いがありました。
そこで医師の研究など、臨床情報の活用を推進するため、電子カルテや部門システムの情報を集約する統合DBを開発してきました。次のステップとして、統合した医療情報を診療支援に活用するため、各部門の情報をリアルタイムに連携する医療情報連携プラットフォームの構築を進めています。
── なぜリアルタイム連携が必要なのでしょうか。
鈴木: 院内では、病理検体や注射/処方薬など多くのものが移動します。医療安全の観点から、いつ・誰が・どこに運び・誰が受け取ったのか、といった情報を正確に把握したいという要望が以前からありました。宅配便の配送状況を確認するように、リアルタイムで追跡できるシステムをイメージしていただくと分かりやすいと思います。そのようなことを実装しようとすると、電子カルテから発行されたオーダ情報や部門システムで行われた受付操作などをリアルタイムで収集する必要があります。
導入システム
インテックの医療情報連携プラットフォームでリアルタイム連携とFHIR対応が可能に
── 医療情報連携プラットフォーム導入のきっかけは何でしょう。
鈴木: 統合DBと各部門システムとの連携はリアルタイムではなく夜間のバッチ処理ですが、今回構築したトレーサビリティ情報管理については、リアルタイムの連携が必要です。検討を開始した当初は、良いアーキテクチャがなかなか思い浮かばず悩んでいましたが、2021年に開催された第41回医療情報学連合大会の岩手医科大学附属病院の講演でIRISを利用した医療情報連携プラットフォームという仕組みを知り、インテックを紹介してもらったのがきっかけです。
── システム構築のポイントを教えてください。
鈴木: 汎用性と拡張性を持たせることです。IRIS導入当初から、病理検体、検体検査、注射/処方薬の3つはトレーサビリティシステムが必要と考えていました。まずは病理検体から着手していますが、ほかの物品搬送業務にも応用しやすい設計にしています。また、将来的には他院へ展開することを念頭に、FHIRによるデータ連携に対応するなど、当院特有の仕様をできるだけ排除しました。
小口: どのような病院でも業務行動には多くの共通点があると思います。我々はがん医療の現場に対応する仕組みを作っていますが、インテックに協力いただくことで、がん以外の診療にも役立つものへ発展させてくれるのではないかと考えています。
鈴木: IRISはほかの医療機関にも導入されていますし、FHIRベースで開発しておけば、他院への展開もしやすくなると考えました。
── 病理検体トレーサビリティシステムはどう運用してますか。
鈴木: まず内視鏡部門で採取した病理検体は、担当職員のIDカードとすべての検体容器のバーコードをスキャンしてトレーサビリティ情報を記録したのち、保管庫で一時保管します。翌朝、搬送担当者によって病理部に届けられ、病理部での検体受領時にも、IDカードと容器のバーコードをスキャンします。このように検体が移動するたびに、バーコードで取扱者と時刻を記録するので、例えば、内視鏡部門を出たときは5個あった容器が、病理には4個しか届いていない場合、トレーサビリティ情報があるので発見しやすくなります。
── 運用を開始して不具合などはありましたか。
鈴木: システム側の不具合はほとんどありません。もともと病理検体の容器ラベルと職員IDカードにはバーコードが付いていたので、既存の機器・媒体をそのまま使用できました。また、アプリケーションの操作を極力簡便にするために、さまざまな工夫を取り入れたので、現場のオペレーションも大きな変更はなくスムーズに運用ができました。
効果と展望
追跡情報の可視化で所在不明トラブルが減少 ITタスクシフトをあらゆる医療に広げたい
── 導入したことで現場からの反応や効果はありましたか。
鈴木: 実は以前から、一時的に持ち出された内視鏡検体を、そのままどこかに置き忘れてしまうということが、ときどきありました。システムを導入したことで、部署メンバーのコンプライアンスが良くなりました。置き忘れた場合も記録をたどることで発見しやすくなり、トラブルが減ったと聞いています。
小口: モノの紛失は何年も課題でした。電子カルテはあくまでカルテとオーダリングでしかなく、病院の業務フロー全体をサポートできるシステムではありません。今回の開発で、ようやく人とモノの動きをサポートするシステムを作ることができました。どの病院でもモノの移動や所在不明は課題でしょうから、シンプルに使えると思います。
── 今後、ほかの業務支援システムの計画はありますか。
鈴木: 直近では造影のCTやMRI検査前に腎機能の確認をするために、血液検査の結果をリアルタイムでモニタリングできるチェックシステムを開発しています。現在は電子カルテのDWHを参照するような実装ですが、これをすべてIRIS経由のFHIR対応に切り替える予定で、5月をめどに構築できればとインテックと相談しているところです。また当院はペーパーレス化を進めていますが、業務によってはまだ紙の伝票などが残っていますし、スプレッドシートを駆使して運用している部署もあります。1つ1つをデジタル化していくことで業務負荷や仕事量が見えてくるでしょう。そこからシステムへのタスクシフトを検討していければと考えています。
小口: 将来的には、医療の業務フローから人事や経営もすべて統合した病院の運営をサポートするシステムを目指しています。
── インテックへの期待や要望はありますか。
小口: これからは、人からITへのタスクシフトが必要です。しかし、日本中の病院がシステム開発部門を院内に設置するのは困難な面があると思います。我々とインテックとの共同開発で生まれたシステムがパッケージ版となり、全国の病院へと広まっていくことを期待しています。
Client Data 公益財団法人がん研究会 有明病院
1908年に日本初のがん専門機関である癌研究会を創設。2005年に有明に移転し、臓器別診断、電子カルテシステムを導入した近代化を実現。2011年に公益財団法人に移行し、「がん研究会」に名称変更。2016年には地上4階、地下1階の新棟を建設し、放射線治療施設、画像診断、健診センターを開設。世界に先駆けるがんの臨床研究を主導し、最先端の知見を取り入れた治療に取り組んでいる。会社名 | 公益財団法人がん研究会 有明病院 |
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- ※本事例の情報は、2024年2月現在のものです。
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公開日 2024年03月04日
導入した商品・サービス
- 医療情報連携プラットフォーム
- 特定の製品やサービスに依存せず、医療機関のニーズ/課題に合わせて医療データの高度利用を可能とするプラットフォームです。