シリコンバレーエコシステムの歴史
シリコンバレーにおいて、私立校の雄スタンフォード大学と全米No.1公立校UCBは双璧を成す学術機関です。しかし国際的な知名度では、スタンフォード大学の方が高いと感じます。このことは、現在のシリコンバレーのベースになった企業が、スタンフォード大学のフレデリック・ターマン研究室から輩出されたことが影響していると考えられます。ターマン教授はスタンフォード大学を卒業後、マサチューセッツ工科大博士課程を経て、1930年にスタンフォード大学に戻りました。研究成果を大学外で利用することを認め、起業を支援したことから「シリコンバレーの父」と呼ばれています。
ターマン研究室から起業した会社には、Hewlett-Packard(PCなどコンピュータ製品の提供会社)、Ampex(磁気テープレコーダー開発)、Varian Associates(放射線治療装置)、Fairchild Semiconductor(半導体製造業)、Raychem Corporation(電気絶縁製品を開発し航空宇宙産業に貢献)、General Microelectronics(商業的MOSの集積、回路製造)などがあげられます。研究室から起業する際は政府やNASAから支援があり、シリコンバレーのスタートアップ起業プロセスとエコシステムの歴史は、スタンフォード大学を中心に歩んできました。
バークレー宇宙センターの設立
2023年10月、UCBがエイムズ研究センターと航空、宇宙探査、宇宙での生活や仕事の分野で未来のイノベーションを生み出すための研究スペース、「バークレー宇宙センター」を創設すると発表しました。
5月のBIFにはホワイトハウスから科学技術政策局副長も出席していましたが、その中で主宰者でありオープンイノベーションの提唱者でもあるヘンリー・チェスブロウ教授から改めてメッセージが発せられました。「バークレー宇宙センター設立の目的は、学術界、民間企業、政府が協力して、未来の革新に繋がる航空宇宙、先進航空、量子コンピューティングとデータサイエンス、災害回復力、極限環境、先端材料を産業として立ち上げるためのイノベーションセンターおよびハブとしての機能を担うことです」
ここで注目すべきは、中心的な役割を意味するハブとしての機能に言及したことでしょう。さらに提供するサービスは以下の4つと説明がありました。
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1. Public Outreach and Education(一般向けのアウトリーチと教育)
宇宙科学と技術に対する認識と理解を高めることを目的とした一般公開のイベント、ワークショップ、シンポジウムの開催。これらのイベントでは、NASAやその他の関係者と連携して、実践的な学習体験や公開講義を実施。
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2. Community Partnerships(コミュニティパートナーシップ)
地元の学校、非営利団体、その他のコミュニティ組織と連携して、STEM(科学、技術、工学、数学)教育を推進。これには学生向けの教育プログラム、インターンシップ、メンターシップの機会に対するリソースとサポートの提供を含む。
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3. Collaborative Research and Development(共同研究開発)
イノベーションを推進するために学界、民間企業、政府機関間のコラボレーションを促進。このコラボレーションは、研究の発見を航空宇宙、気候研究、災害耐性の進歩など実用的アプリケーションへの適用が目的。
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4. Entrepreneurial Support(起業家支援)
研究から生まれたスタートアップや起業を支援。インキュベータースペース、リソース、ネットワーキングの機会を提供し、新規事業の発展と革新的な技術の市場投入を支援。
バークレー宇宙センターは、宇宙開発とNASA敷地内のキャンパスをシンボルに、2026年から建設が予定されています。サービスとして共同研究開発、起業家支援をすると表明しており、私はこれをUCBによる新エコシステムの立ち上げ宣言だと捉えました。バークレー宇宙センターは、UCBとそのビジネススクールHaasが、政府とNASAの支援のもとで、スタンフォード大学を中心に歩んできたシリコンバレーのスタートアップ起業プロセスとエコシステムの歴史を大きく変える可能性があります。
BIFでの今後の活動
BIFには現在84の企業や団体が参加していますが、NVIDIA、TSMC、Ansys、Siemens、Google、Ericsonなどグローバルレベルで半導体のサプライチェーンを担う企業も名前を連ねています。5月のBIFでこれら企業のパネルディスカッションやNASAの取り組みを聞き、宇宙開発を軸に形成される新エコシステムの中心になるテーマは以下だと予想しています。
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1. 半導体の性能向上と多様化、グローバルサプライチェーン強化主導
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2. 航空宇宙に必要な大容量データをAI処理可能なデファクトとなる高速DBの開発
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3. AIを活用したシミュレーター開発
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4. シミュレーションのための超高度なバーチャル空間構築(NVIDIA提唱のOmniverseの更なる進化版)
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5. 高高度バーチャル空間の有機的連結(拡張性)
IITはBIFネットワークに直接コンタクトして、誰がいつ何の研究室を立ち上げ、どの企業が参加するかというコアな情報を得ることができます。今後はBIFの新エコシステムで起こることを事前キャッチし、インテックの新たな研究テーマに提言するとともに、バークレー宇宙センターの共同研究室メンバーとして参画するルートを確立、インテックの研究と事業開発拠点とすることも視野に入れて活動していきたいと考えています。

2023年にアメリカ連邦航空局から特別耐空証明(テスト飛行)を取得。サイズや外観は一般の自動車に似て4つの車輪を搭載し、公道の走行も可能。胴体がメッシュ構造で軽量化されており、8つのプロペラにより垂直浮上することができる。CEOのJim DukhovnyはUCB卒。
