いま求められるのは健康経営と社会貢献未来へ引き継がれる経営理念とリーダーシップ

Special Feature
公開日:2024.03

インテックは今年創立60年を迎えます。今後50年、100年と続く企業になるには、利益の追求だけでなく、世の中のためになる取り組みをしていく必要があります。今回、インテック代表取締役社長の北岡隆之が、元日本航空代表取締役副社長で、現在は公益財団法人日本体操協会の会長である藤田直志氏をお招きし、経営理念やリーダーシップについて意見交換しました(文中敬称略)。

企業と一緒に活動してより社会貢献に取り組む

藤田直志 氏
1956年生まれ、神奈川県出身。1981年、国際基督教大学卒業後、日本航空株式会社へ入社。2010年1月に日本航空が経営破綻したあと、2月に執行役員 旅客営業本部長に就任。再建のため会長に就任した稲盛和夫氏のもと、稲盛式経営哲学に魅了されV 字回復に貢献。2016年に代表取締役副社長執行役員。2021年6月に副会長を退任後、公益財団法人日本体操協会会長に就任。

藤田: インテックには男女トランポリン日本代表のオフィシャルトップスポンサーとしてサポートいただいておりますことに、日本体操協会として心から感謝を申し上げます。本日のお話にあたり、少し私の会社人生からお話しさせてください。
大学を卒業して国際的な仕事をしたく、日本航空に入ったのは1981年のことです。そこからの私の会社人生は、どちらかというと山あり谷ありでした。入社5年目に、御巣鷹山での墜落事故を経験し、イラン・イラク戦争や9.11の米国テロ、東日本大震災と、航空業界は世の中の動きに大きく左右されるのですが、そうしたさまざまな試練の極めつけは2010年に会社が経営破綻したことです。普通のサラリーマンだと、1つ2つぐらい事件はあるかもしれませんが、私の場合は3年おきぐらいに事件がありました。ただ、それでも目の前の仕事に専念しているうちに、40年が経った次第です。

現在は、日本体操協会の会長という立場になり、協会について少し説明しますと、1930年に体操界を統括し代表する団体として、体操の振興及び普及奨励を図り、国民の心身の健全な発達に寄与することを趣旨として設立されました。現在のメインとなる種目は、体操競技、新体操、トランポリン、一般体操、エアロビック、パルクールの6つになります。各種目に大きな大会が年に3、4回あり、そうした大会を運営しながら、代表選手を国際大会へ派遣して活躍してもらっています。

体操のファン層としては、女性が多く56%を占め、年齢層は、世界的に見ると18歳から24歳が多いのですが、日本の場合は30代から後半の世代が多くなっています。大会運営も海外ではエンターテインメント的な見せ方をしていますが、日本の大会はどちらかというと体操大会のような傾向があり、より世界レベルの大会運営を目指し努力しています。ただ、近年は開催地の立候補が少なくなってきています。大会運営には多くの費用がかかるため、どういう経済効果があるのかが求められています。そんな中でいま一番スポーツに熱心なのは中東です。

北岡: 確かにサッカーのワールドカップも中東でした。

藤田: 中東はスポーツの世界でも人を呼んで、自分たちの国をアピールすることに注力しています。なんとか日本で世界選手権を開催すべく、誘致活動をしていますが、なかなか見つからず、今は体操協会100周年となる2030年の大会誘致を目指して活動しています。
体操協会が抱えている課題としては、東京オリンピックが終わってから、スポーツに対する経済界の姿勢が後ろ向きになっていることです。また、選手の育成にはかなりの負担が掛かり、現在は国の補助とスポンサーからの資金、会員費で賄っていますが、かなり財政的に厳しくなっています。さらに選手は引退後のキャリア選択も限られており、そのあたりの拡充を図っていく必要があります。
そういう状況の中で、前任でイオンの創業者である二木英徳会長が勇退され、20年ほど親交のある国際体操連盟の渡邊守成会長から「世の中のために働かないか」と誘いを受けました。日本航空が経営破綻した時にお世話になり、私の人生の指標でもある、稲盛和夫さんから、みっちり鍛えられたとき、物事に取り組む時は「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答するよう教わりました。自分が協会の会長になるのは、見栄や有名になりたいのではなく、体操競技を通じて健全な競争をやっていくこと、スポーツを国民の皆さんの健康や生活に貢献できるようなものにしたいこと、体操をやっているすべての人たちが物心両面の幸福になること、そういう目的で会長を引き受けた次第です。現在、さまざまな課題に直面していますが、常にこの目的に立ち戻って「なんとかせなあかん」という気持ちでやっています。

北岡隆之
インテック 代表取締役社長

北岡: 体操というとオリンピックに選手が出て、金メダルも取っており、人気が高くスポンサーもたくさん付いていると思っていたので、会長のお話を聞くまでは、体操協会全体としては非常に潤沢な資金があるものだと勝手に思い込んでいました。

藤田: 費用の40%が大会運営費で、選手強化に30%。選手を支える事務局運営費も必要です。事務局員は30人ほどで、それ以外の方はすべて無給のボランティアが大半です。そうなると、やはりやることに限界があり、これ以上削ることも難しい状況です。収入は20%が入場料や講習会で、35%が補助金。補助金は3分の2が支給されますので、3分の1は自分たちで賄う必要があります。あとは協賛金が30%といった構造なので、その中でやりくりしていかなければなりません。

北岡: 私自身も一般社団法人テレコムサービス協会の会長なのですが、おっしゃる通りで、利益を出すことを目的としない、世の中に貢献するための団体ですので、会費で運営しています。やはり会員を集めるのは非常に大変ですし、そういう面で言うと、体操協会自体もスポンサーを集めていくことは、かなり大変なことなのだろうと思います。

藤田: なかなか大口スポンサーを見つけるのは難しく、今やろうとしていることは、社会にもっと健康になってもらうための活動です。今は企業もそうですが、社会に何が貢献できるのかということを求められています。ウェルネスパートナープログラムとして、例えば日本代表のOBやOGを派遣して、健康教室や体操教室をやるなど、パートナー企業との共同プログラムを開発したり、アスリートのサポートをするなど、「一緒に活動しませんか」と呼びかけようとしています。

北岡: 経済産業省による健康経営が求められているのはおっしゃる通りです。この業界ではDXというデジタルを使って、企業が事業を成功させるという考え方もありますが、健康と福祉、地域活性化をデジタルの活用で支援したいと思っています。そのために、さまざまな企業と組んで、世の中に受け入れられることを一所懸命取り組んでいます。体操協会も健康をキーワードに取り組んでおられるとは存じ上げなかったので、今後体操協会と一緒に国民のために何か貢献できることがあれば、お手伝いしたいと思いました。

藤田: 先日、サッカーJリーグを立ち上げた川淵三郎さんの講演で「この協会は社会に何ができるか」ということを考えて、芝生のグラウンドや子供たちが安全に体を動かすことができる環境を作ろうとしたという話を伺いました。私はまだ始めたばかりですが、50年、100年先で体操協会は何を目指すのか、今の幹部たちと一緒に大きな戦略を作っていく必要があると感じました。その場しのぎではなく、企業や業界団体と一緒に取り組んで普及してもらうところから始めたいですね。

北岡: 企業経営においても、以前は株主に対していかにリターンを返すかが中心でした。それが今はパーパス経営、いわゆる社会貢献を企業がどこまでできるのかが重要視されています。若い人たちも、自分がやっている仕事が、いかに世の中で役立つかを望んで入社してきています。
2019年からトランポリン競技に協賛させていただいたのも、インテックという名前を広めたいのではなく、トランポリン競技をもっとたくさんの人に興味を持ってもらえるよう、デジタルの力でお手伝いしたいと考えてのことです。競技選手の裾野を広げるという意味で、AI技術を使って選手の育成に取り組んだり、その技術を使って、今度は手話に活用して社会生活のサポートに活かしたりと、いろいろと発展させつつ、社会貢献につながればと思っています。
会長のお話を伺って、体操協会と一緒にやらせていただける分野は、当初想定していたものよりもっと広いのではないかと感じています。

藤田: 野球やサッカー、バレーボールなど、データを活用して選手強化をしている競技が増えてきています。ただ体操は、そういうデータサイエンティフィックな世界に、まだ十分に行けていません。選手個人では分析していますが、全体としてのデータ戦略をやっていかないと、他国にどんどん抜かされてしまうと思っています。

稲盛さんから叩き込まれた経営理念とリーダーシップ

北岡: 話は変わりますが、私が社長就任時に「尊敬する経営者は」と質問を受けた際、すぐ稲盛和夫さんと答えました。日本航空の再生を一緒になって行われた藤田会長に、当時経験されたことについてお話しいただければと。

藤田: 2010年1月19日に経営破綻し、2月1日に稲盛さんが会長に就任されたのですが、当時の役員は全員退任し、新しい役員を選出する際、私が部屋に呼ばれまして「なんで潰れたと思う」「君はどうしたいんだ」と睨まれたのが最初の出会いでした。最後に「やめても地獄、残っても地獄だ。同じ地獄だったら一緒に来るか」と言われ、それから3年間、朝から晩まで会社でご指導いただきました。
その時、この会社には企業理念が共有されていないことと、採算がよくわからないことを指摘され、それが企業理念・JAL フィロソフィの策定とアメーバ経営の導入(部門別採算)の始まりでした。
最初のころは、リーダー教育として稲盛さんが自分の哲学を1時間ぐらい話し、そのあとディスカッションや発表をする4時間程度のコースをやりました。さまざまなご指導をいただくのですが、何度も怒られるので怖かったですね。

北岡: テレビなどで拝見していると、優しいイメージなのですが。

藤田: 例えば、経営計画の数字を求められたとき、「この数字はどういう決意で、俺んとこ持ってきたんや」と聞かれ、答えられないと「もう1回出直してこい」と言われたりしました。部下がまとめた資料を単に右から左へ説明するのもダメで、自分で読んで大事なことをA4用紙1枚にまとめてくることも言われました。本当に1つ1つ至らない点を指摘された3年間でした。
でも仕事が終わるとカラオケで陽気に歌ったり、懇親会などでは「あいつの皿に料理がない」などと全部自分で指示されるんです。偉そうに座っていることはなかったですね。運動会をやるのも必死にやる。経営者というのは、必死にやらなきゃダメだと言われました。

北岡: それをずっと体現されているわけですから、説得力がありますね。なぜ、稲盛さんのことを申し上げたかというと、インテックは1964年に富山計算センターという名前で17名からスタートし、今年創立60年を迎えました。私が入ったのは1984年ですが、まだ売上高で言うと今の5分の1以下という小さい会社で、創業当時のみんなで会社を大きくしようと頑張る空気感が残っていました。技術と志で京セラをスタートされた稲盛さんの経営方針や考え方は、インテックにもマッチするのではないかと書籍を読んだりして勉強しました。その時「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類社会の進歩発展に貢献すること」という思想を、インテックのベースにしなければ、社員はついてこなくなると考えました。
インテックを創業した金岡幸二も意志を持った経営者であり、稲盛さんと共通するような、例えば「インテックという旗の下に、1つの方向に向かって前進する人間の集団がいるということ、その人間の集団、すべての方々が充実し、そして幸せになる、それが私は会社だと思っている」という言葉や、「私の信条」※1を残しています。
こうした考えは現在にも通ずるものであり、だからインテックは一般的な企業と比べ社員満足度評価においても連帯感が非常に高くなっています。今後も当社の経営理念である「OUR PHILOSOPHY」※2を軸として成長していきたいと考えています。今の時代に厳しさというものを、どのように根付かせるかは、なかなか難しいところです。会社に対して、経営者はもちろん責任を取りますが、社員全員が会社を経営していくぐらいの気持ちで取り組んでいければ、100年企業と言われるところまでいけると考えています。

藤田: 稲盛さんがおっしゃったのは、京セラでセラミックを作り始め、それがブラウン管や半導体などに展開したとき「時代の潮流に乗れましたね」とよく言われたけど、そうではなく「京セラがその時代を作った」と。インテックも60年前からITやシステムインテグレータという今の社会の潮流を作ってこられたし、北岡社長のお話を伺って、やっぱり社会を良くしてきた会社なんだと、すごく感銘を受けました。

北岡: インテックはコンピュータを、電気や水のように、誰でもどこでも使える世の中を作るということからスタートしました。我々が進む方向を考えた時、確かにGAFA※3のように世の中を変えようとしているところもありますが、インテックは、地域活性化や健康経営をキーワードに、どこまで世の中を変え貢献できるか。それが企業価値につながるということで、全国ベースで通用する人材やソリューションといったものを配置しており、他の企業ではできない形でご提供することを目標として動いております。
そういう意味では、ナンバーワンを目指すより、オンリーワンを目指そうというのが、今のインテックの考え方であって、そのためにも、言われたことをいつまでにいくらでできます、というだけではなく、インテックの最先端技術を活用して、お客さまがやりたいことを一緒に取り組んでいけるよう一所懸命努力しています。

藤田: すばらしいですね。日本のノウハウは、もっと世界に打って出て貢献できるのではと思っています。

北岡: 自動車産業のかんばん方式が世界に広く認識されたように、ITに関しても、きめ細やかなサービスは世界からも認めてもらえる可能性は高いのではと思います。

藤田: IT業界は、無限の可能性を秘めているので、若い人がこの業界に来たいというようになってほしいですね。

創業の精神 私の信条 奉仕こそわが務め 創造こそわが喜び 世界こそわが職場 繁栄こそわが望み 悠久こそわが行く手 社長
金岡幸二が社長訓示として披露した創業の精神「私の信条」の全文

これから発展するために取り組むべきこととは

藤田: 体操界には財政や強化・普及などさまざまな課題はありますが、やっぱりスポーツという位置付けを、単なるスポーツではなく、もっと社会に貢献できるということを発信することで、経済界や産業界に目を向けてもらいたいと思っています。それには自分たちから発信しなければなりません。ところが、スポーツ団体のトップは、経済界にチャネルが少ないと感じています。
だから、いろんなとこに飛び込んでいき、コミュニケーションや仕事ができる環境を作ろうと模索しています。まずは企業といろいろな活動をして、方向性を見出し、それを発展させていくことを考えていけば、スポーツ選手が引退しても夢のあるスポーツ界にできるのではと考えています。微力ながら経済界とつながりのある協会の方々と手を組んで実現できればと思っています。

北岡: インテックが1964年に創業した当時は、日本の産業が非常に伸びていく時代でした。それが、各企業が成長していくのに合わせて、コンピュータ技術を使っていかに効率化していくかが仕事の中心になりました。いまは効率化だけでなく、世の中のウェルビーイングのためにITやデジタル技術で貢献できる範囲が広がってきていると思っています。
何かを大きく変えていくには、産業界の方々や体操協会のような団体の方々など、さまざまな意見交換が必要になってきます。インテックとしても、そういうお話ができる社員をどんどん増やしていかなければならないし、受け身ではなく「こうしましょう」と常に言えるような会社にしていきたいと考えています。そうすることで、世の中も良くなると思いますし、企業としてのインテックも、お客さまに認めていただいて、発展できるのではと思っています。今回お話を伺って、もっと貢献できる分野があるのではと感じました。

  • ※1私の信条:1971年にインテックを創業した金岡幸二が社長訓示として披露した創業の精神「私の信条」の全文
  • ※2OUR PHILOSOPHY:TISインテックグループ基本理念。グループの経営、企業活動、構成員において、大切にする考えやあり方を幅広く明確化しており、TISインテックグループのすべての営みはこのOUR PHILOSOPHYを軸に行われる。
  • ※3GAFA:アメリカの支配的な大規模IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook(現Meta)、Appleの4社の総称。これにMicrosoftを加えたGAFAMと呼ぶこともある。
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