通信自由化から“つなぐ”ことを使命として歩んできた
── まずはネットワークの進歩と、どのように対応されてきたかを教えてください。
君塚:
インテックは「ネットワーク」という言葉が生まれる前の「通信」と呼ばれた時代からネットワークサービスを提供してきました。1985年に通信自由化が実施されたとき、特別第二種電気通信事業者として郵政省から第1号認可を受けました。当時は電話網からデジタル網に切り替わる頃で、その後ISDNが開始され、完全デジタル化していく中で、Windows 95が登場してインターネットが世の中に普及し始めました。
その頃のネットワークサービスは、拠点を“つなぐ”ことが使命でした。1990 年代にはデータセンター事業を開始し、さらに2010年代にはクラウドサービスを開始。現在はネットワークとデータセンター、それからクラウドという3本の事業が主軸となっており、時代とともにサービスを立ち上げてきました。
五十嵐:
インテックには、いつでもどこでも誰もが自由にコンピュータの恩恵を受けることができる、コンピュータユーティリティ社会を実現したいという理念がありました。その理念の中で、パソコンをつなぐ。この“つなぐ”という言葉が重要なキーワードで、お客さまがコンピュータを使える環境を提供しなければならないという考えのもとに、ネットワークサービスを始めています。ネットワークを通じて何ができるのか、それを安心・安全に実現することを目指したのが始まりです。
そして固定電話を使っていた時代から、さまざまなサービスを立ち上げたことが積み重なって、今の統合型セキュアネットワークサービスが生まれています。
── 2011年の東日本大震災ではネットワークにどのような変化がありましたか。
君塚: データセンターの事業も行っており、東日本大震災をきっかけにディザスタリカバリ※1が注目を浴びました。インテックは日本海側の富山県にデータセンターがあるので、首都圏地区のバックアップとしてBCP※2対策の需要が急速に伸びました。
五十嵐: インテックのネットワークは流通業界などに使われている例も多く、全国展開している店舗がつながらなくなるとビジネスが滞ってしまいます。ネットワークは一度つながると、それが使えて当然となるため、ビジネスを継続していただくためにサービスを提供し続けることを強く意識して取り組んでいます。
君塚: 安心・安全にサービスを提供するというポリシーはかなり強く意識しています。震災などの災害時においてもできるだけサービスを止めずに継続する使命感は、社員にも深く浸透していると思います。
── VAN事業も長く継続されています。
君塚: 通信自由化の頃に、VAN事業と呼ばれた消費財業界のメーカー、卸間における受発注をまとめようという企画があり1985年にプラネット※3、1986 年にファイネット※3立ち上げにインテックも参加しました。「我々のサービスが止まったらスーパーに商品が並ばなくなる。我々は社会インフラを担っている」という当時のメンバーの教えは、今日まで引き継がれています。
コロナ禍によって急激な進化をもたらしたネットワーク
── 2010年代にはクラウドが登場し、2020年にはコロナ禍に見舞われます。このあたりの変化は急激だったのではないでしょうか。
君塚: インテックもインフラとしてクラウドサービスを提供していますが、そこにAWSのようなパブリック系のクラウド※4が登場して、クラウドゲートウェイという形で統合型セキュアネットワークサービスから各社のクラウドへ“つなぐ”機能を徐々に拡充しています。そこに新型コロナウイルスが突然現れ、多くの企業が急遽在宅ワークを余儀なくされました。働き方改革の一環としてネットワークの最適化を進めていたお客さまもいらっしゃいましたが、元々が全社員の数割の利用を想定しての設計だったため、全社員が一斉に社外から社内ネットワークにアクセスすれば、当然ながら無理が生じました。さらにビデオ会議が一般的なコミュニケーションツールになると、パンク状態に陥ることは必至でした。ここに至って、ネットワークを快適に使えることの重要性が一斉に再認識され、オープン(インターネット)とクローズ(閉域網)を適正に組み合わせられる統合型セキュアネットワークサービスのご要望は急速に増えました。
── さらにオープンなネットワークではセキュリティの問題もあります。
君塚: ゼロトラスト※5という考え方はコロナ禍以前にもありましたが、注目され始めたのはコロナ禍になってからでしょう。これからのネットワークは、より一層セキュリティが重要になってきます。次世代型のネットワークとして、きちんと制御でき、かつセキュアな環境を構築する。コロナ禍を境に本腰を入れて検討が始まったと思います。
── 逆にコロナ禍があったからこそ進んだという部分もありますか。
君塚: やんわりと検討されていたことが実行段階へと一気に進みました。しかし、まだこれから変えていかなければならないこともたくさんあります。セキュリティと快適さの両立、増加したトラフィックへの対応などです。それらを解決するには、かなりのコストがかかるので、徐々に改善していかざるを得ません。次世代ネットワークを設計する上ではやはりハイブリッドに、インターネットとゼロトラストなど色々と取り入れながら、どうすべきか各社のネットワーク担当が考えているでしょう。自社だけ変えればいいのではなく、通信する相手も変わる必要があり、長期計画的にちょっとずつ投資していかなければなりません。
DXにローカル5G、そして生成AIさらに変化するネットワーク
── 最近はDX 推進がトレンドとなっていますが、インテックとしてはDX 推進についてどのようにお考えですか。
君塚: 例えば、ファミリーレストランやカフェなどの店舗にネットワークを引くというのがこれまでのインテックの仕事でした。しかし、つながったら今度はそこにWi-Fi 環境を作りたい。Wi-Fi 環境を作る目的は、これまで集客効果を上げることでしたが、いまではロボティクスを動かすためのネットワークとしても検討しなければなりません。最近は人手不足を解消するため、猫型ロボットのようなロボティクスに配膳の一部を任せる店舗が増えています。ロボティクスは勝手に動くわけではなく、操縦しているわけでもありません。無線通信など最適化した店舗内DX によって、働き手の代わりになっているのです。こうしたことからもネットワークは重要で、お客さまがやりたいことをうかがい、そのためにはどうすべきかを提案できるようにしたいと考えています。
── ローカル5Gなどはいかがでしょう。
五十嵐: ローカル5Gを使用するには、無線局免許の申請などさまざまな手続きが必要であり、手間と時間がかかります。例えば、工場内のLAN の代わりをローカル5Gにしたいのであれば、私どもで申請手続きからお手伝いさせていただきます。しかし、Wi-Fiの規格が6から7になると、ローカル5Gクラスの容量はWi-Fiでも十分になります。普及度で言えばWi-Fiの方が強いので、わざわざ認可を取るよりもWi-Fiを使うサービスの方が適していると思います。
君塚: 日本のように狭い敷地にたくさん建物を建てているのであれば、建物内はWi-Fiで十分で、大都市圏ではあまりローカル5Gは向きません。また、5G は通信キャリアが頑張っているので、それを借りればいいでしょう。今、パブリック5Gとローカル5Gの間にプライベート5Gという概念が生まれており、通信キャリアの5G をプライベートとして貸し出すサービスがあります。
五十嵐: ローカル5G は大規模な工場などに使うのはいいのですが、そこまでの規模を持っていないと、なかなかコストを含めてメリットが出にくいと思っています。
── 今年は生成AIが話題ですが、DXという点で生成AIの活用はどうでしょうか。
君塚: 今年になって生成AIというファクターが急速に浮上して来ました。数年前にDX推進と言っていた人たちが、こぞって生成AIとは何ができるのかという話になり、DXイコール生成AIという気運になっています。この生成AI が本当に噛み合えば、大きく変わる気もしています。ただ、噛み合わないで期待外れに終わる可能性もありますが、今回はかなり変革が起きると予想しています。IoTデバイスが増え、ロボティクスにスマホをつなぎ、ロボティクスがスマホで動くような使い方をイメージするといいと思います。
最先端の技術研究は進めるが
安心・安全性は決してブレない
── 今後取り組んでいこうと考えていることはありますか。
君塚: ネットワークの最適化、次世代化の設計支援、コンセプト作りみたいなところでしょうか。お客さまがどうありたいかということを見定めて設計する、いわゆるネットワークインテグレーションのコンサルビジネスです。コンポーネント※6や考え方もさまざまに多様化しているので、お客さまに必要なコンポーネントを含めたマルチテナント型のサービスを提供していきたいと考えて います。我々が目指しているのは、統合型セキュアネットワークサービスにそうしたコンポーネントを増やし、お客さまはそこへアクセスすれば、必要なものを選択して利用できる形にしていきたいと思っています。
── その方向への動きはいつぐらいを想定しているのでしょうか。
君塚: おそらく、永遠にアジャイル型※7だと思います。どんどん新しいコンポーネントが出てくるので、お客さまと伴走しながら、サービスをできるだけ用意して、改良していくという形です。
五十嵐:
本当に先進的な技術が立ち上がって、これから技術が成熟していくものをサービス化していくというよりも、世間一般的に使われていくようなものを、きっちりとした形で安心・安全に使って、そのメリットを享受できるようなサービスを提供していく方向性だと思います。
本当なら「最先端をやっています」と言うのが、一番カッコいいかもしれません。もちろん研究開発は行っていきますが、性急にサービス化するのではなく、お客さまが、今どういう技術が必要なのかということをきちんと見極めて、お客さまと一緒にサービス化していくことが、これまでインテックのネットワークサービスとして取り組んできたことです。
── ここ数年で考えている新サービスなどはありますか。
五十嵐: Wi-Fi系のサービスは充実していきたいと思っています。加えて、少し先の話になりますが、超高速ネットワークがどんどん出てくるので、そこに向けてどんなサービスを提供できるのか考えています。
君塚: ネットワークを陰で支えているバックボーンも、次世代技術に変えていく必要があります。
── 最後に読者へ一言お願いします。
君塚: 長年ネットワークサービスを提供してきて、24時間365日止めずにつなげてきたという誇りがあります。今後も使命感を持ってお客さまにサービスを提供し続けていきます。安心・安全というコンセプトに機能を追加していくので、今後もインテックに期待してください。
- ※1ディザスタリカバリ:地震や津波など災害によってインフラやシステムが被害に遭い、事業継続できなくなった際、復旧および修復するための予備措置をあらかじめ講じておくこと。
- ※2BCP:事業継続計画(Business Continuity Plan)の頭文字で、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に備えて、事業資産の損害を最小限に留め早期の復旧を可能にするための手段をあらかじめ計画すること。
- ※3プラネット、ファイネット:プラネットは、EDIやデータベースで企業間取引をサポートする企業。ファイネットは、酒類・加工食品業界における企業間情報交換システムを運用するサービス企業。
- ※4パブリック系のクラウド:閉域ではなくインターネット回線を通じてアクセスするクラウドサービス。AWSやMicrosoft 365、Google Workspaceなどがある。
- ※5ゼロトラスト:社内外というネットワークの境界を取り払い、情報資産へのアクセスはすべて信用せずに安全性を検証することで、情報流出の脅威から守るというセキュリティ対策の考え方。
- ※6コンポーネント:機器やソフトウェア、システムを構成する部品や要素のこと。
- ※7アジャイル型:英語のAgile(素早く)の意で、さまざまな状況の変化に対して、素早く対応すること。