人々の役に立つ先端技術を活用した未来への取り組み

Special Feature
公開日:2023.09

社会が抱える課題を解決するには、先端技術による助けが必要です。ただ、技術に走りすぎて人との共創を無視してしまうと、かえってマイナス効果になってしまいます。人々の役に立つ先端技術とは何か。ヒューマン・コンピュータ・インタラクションやバーチャルリアリティを専門とする東北大学 電気通信研究所の髙嶋和毅准教授をお招きし、インテックで奮闘する社員5名と先端技術が貢献する未来について議論を深めました(文中敬称略)。

ほかと違う、おもしろい、役に立つ研究を目指して

髙嶋 和毅 准教授
東北大学 電気通信研究所 人間・生体情報システム研究部門 インタラクティブコンテンツ研究室
2008年に大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了後、同大学大学院国際公共政策研究科助教を経て2011年に東北大学電気通信研究所 助教に。2018年から同准教授を務める。主にヒュ ーマン・ コンピュータ・インタラクションやバーチャルリアリティを研究し、2022年の IEEE VR 2022 Honorable Mention Awardほか、過去多数の受賞をしている。

髙嶋: お招きいただきましてありがとうございます。専門はヒューマン・コンピュータ・インタラクションとバーチャルリアリティ(VR)で、少しユニークなところで言うと、ロボットを使った空間デザインなどを研究しています。その空間デザインの研究自体は、もう10年ぐらいやっていますが、ほかにやっている人はあまりおらず、その研究に関してはユニークかなと思っています。

永見: 先端技術研究所は、新規事業や社会課題の解決などに必要な技術の研究開発をしています。ほかと違う強みが必要で、おもしろくて役に立つようなものを目指しています。富山と東京、シリコンバレーの3拠点で活動しており、研究所とマーケティングが一体となった本部で、技術だけでなく、どうやって事業化するかを一緒に取り組んでいるところが特徴です。

髙嶋: 「ほかと違う、おもしろい、役に立つ」というキーワードがいいですね。3つをすべて解決するのはとてもチャレンジングだと思います。「役に立つ」を前面に出すと、ほかとの差をつけるのが難しくなるので、すごいポリシーを持たれていると感じます。

永見: これまでは、企業のDXを推進すべくデジタルで改革をするというものが多かったのですが、これからはVXのような仮想空間と現実空間を融合させる仕組みが必要だと思っています。インテックは元々ネットワークに強いので、ローカルの現実空間とクラウド側で処理したものを橋渡しし、さまざまなものを組み合わせて実現していく必要があると考えています。

金平: 情報システム部では、広くアンテナを張って、なるべく早めに最新技術を取り入れていきたいと考えています。この半年ぐらいの間に、ChatGPTを全社の数千人が使えるようにしたり、データ分析基盤などの環境を整えています。情報システム部は受け身で硬いイメージがありますが、新しい技術を取り入れることで、社内のIT環境を変えられるのも大きなメリットだと思います。

髙嶋: 情報システム部の活動の広さにちょっとビックリしました。環境作りはすごく大事だし、僕は環境をデザインする研究者なので、そういう人たちが社内にいてくれると、とても働きやすいのではと思います。

大きなお世話と思われない塩梅が難しい

吉澤: 現在、私が取り組んでいるのが 「話題推定」です。チャットや会話から、リアルタイムやバッチで話題を取り出すだけなのですが、例えばどういう話題がどの部署から出ているかがわかると、似た話をしている部署同士をつなぎ合わせてコミュニケーションを促進できるかもしれません。またVRとの融合も考えられます。オフィスのいろんなところにマイクを設置して、拾った会話をバーチャルオフィス上に表示させることで、在宅勤務をしていても社内の雰囲気が把握できるのではと考えています。

髙嶋: 僕も10年ぐらい前に、コミュニケーションの研究を始めて、それからしばらくして離れてしまったのですが、会話の内容や身振り手振りなどの非言語的な情報からその環境の場の雰囲気を推定するという研究をしていました。その推定した場に応じて情報を提示したり、興味が一緒の者同士に対し、プロジェクターを使って環境を作るということをやっていました。

吉澤: 雰囲気は似ていますね。髙嶋先生の研究動画で「動く壁」というのを拝見しましたが、コミュニケーションを意識して作られているのかなと思いました。

髙嶋: コミュニケーションにおける非言語的な情報、特に空間行動をいかにうまく伝えるかに注意を払って研究しています。空間作りは、コミュニケーションがグループなのかソロなのかミックスなのかで適切なものを作るのは難しく、そこを頑張って研究しています。ただ会話中に何か情報を可視化したり提示したりする部分は難しかったですね。ときに会話の邪魔になったり余計なお世話になったりしてしまうことがありました。場を計測するところまででも大変なのに、それが未完成なまま僕らは場を作るところまで進んでしまいました。その結果、不完全な場の推定から不自然な情報提示が発生してしまうケースもあり、いま思えば、やや考えが甘かったなと感じています。

吉澤 亜耶
インテック テクノロジー &マーケティング本部
先端技術研究所 主事

吉澤: どこまでが大きなお世話かということは私も考えています。こんなに筒抜けにして大丈夫なのか、どこまで活用すべきか、使うポイントをよく考えないと難しいです。

髙嶋: 例えば、説明なのか説得なのか、会話のカテゴリーによって言語の情報も、持っている手の動きの意味もすべて変わってきます。社会心理学の先生と一緒に研究しましたが、おそらく一緒にやらないと解析できなかったと思います。いま取り組んだら、もう少しうまくできるかもしれません。

誰のためのAIなのか
僕だけのAIを目指して

蘇 洵
インテック テクノロジー&マーケティング本部
先端技術研究所 主事

蘇: いまあるAIは言ってしまえばそのAIを作った大企業の思惑が背後にありますが、私は「僕だけのAI」というキーワードで個人に寄り添うAIの研究をしています。AIを生み出そうとすると、大量のリソースを投入して深層学習させるというのが定番ですが、「僕だけの AI」の場合はそういったリソースは掛けられず、さらに個人の日常生活は複雑で AIの学習には適しません。この研究では、これまでにない方法でAIを作ることで、AIが単なるインタラクションではなく、パートナーみたいな立ち位置になれればと考えています。

髙嶋: 人間がAIを自分にとって親しいものだと感じられれば成功なのか、機能としてパートナーらしい振る舞いを求めるのかによって、研究のスタイルが違いそうです。

蘇: 例えば人と人はいろいろと関わり合いを持ってお互い理解を深めていきますが、AIも同じように関わり合いを通じて学習を行う。つまり人間がやっている仕組みを真似できないかと考えています。人がAIと手をつないで歩く世界があってもおもしろいんじゃないかと。

髙嶋: 確かにいまのスマートスピーカーのAIはコンシェルジュのような感じの振る舞いなので、ちょっと壁を感じますよね。大変おもしろい取り組みで期待しています。

感覚に頼るのではなく
客観的な指導で伸ばす

神田: 私が取り組んでいるのは、姿勢推定AIを用いたトランポリン競技の演技解析です。インテックは2019年度から男女トランポリン日本代表のオフィシャルトップスポンサーに就任しています。スポンサーとして、インテックの技術を使って選手たちを応援できないかと始まった研究です。1台のカメラで撮影した映像から骨格を認識できる技術を活用し、トランポリン競技用のデータや画像を使って深層学習することで、特定の演技動作の検出まで実現しています。この取り組みを、例えばリハビリや工場現場での作業、手話を翻訳するなど、ほかの分野でも応用できないか模索しています。

髙嶋: この成果は結構いいところの国際会議に出せると思います。トランポリンというのが特殊ですし、こういうデータを持っているところはなかなかないでしょうし。

神田: 発表はまだしていないです。スポーツ業界ではデータ活用が注目されていて、同じような技術を使ったり、専門的な機材を使った測定などがすでに始まっています。これまでは、コーチたちが成功体験を基に感覚的な指導をしてきたのですが、こうした技術を使ってデータを収集することで、より客観的な視点で指導ができる世の中になっていくと考えています。

神田 柚紀
インテック テクノロジー &マーケティング本部
先端技術研究所 主事

髙嶋: 最近、お医者さんのためのVR訓練ツールを作ったのですが、技術やノウハウが先生方の感覚に基づくものが多く、あまり言語化されていないんです。なので言語化されていない暗黙的な情報をどこまで考慮できるのか、というのが気になりました。

永見: 医師は自身の経験を大切にしている方が多いような気がしますが、そうした客観的なデータが出てくるとどう思われるのでしょうか。

髙嶋: 嬉しいはずです。特に学ぶ学生にとっては、先生によって教え方が違うといった課題は解決できるはずです。

金平: 会社の中でも、例えば優秀な営業マンの動きを入退館システムの通行履歴を分析して可視化したのですが、パターン化は難しかったことがありました。

髙嶋: データを見るだけでなく解釈が必要なのですが、そのときに専門の意見が必要です。なんとなく、専門的な技術を解析するこういうタイプの研究はやり方が確立されていないと思っています。そうした事例やノウハウを報告するだけでも意味があるので、ぜひ国際会議に出して議論してほしいですね。

仮想空間における空間ユーザインタフェイス作り

金平 剛
インテック 管理本部 情報システム部長

髙嶋: 空間ユーザインタフェイスと呼ばれる分野があり、空間が人々の活動に合わせるように、自身をカスタマイズしてくれるというものです。僕の個人的な興味としては、バーチャルとロボティックを組み合わせると、仮想空間でデジタルな変化もできるし、フィジカルの変化もできるのが売りです。この場合のロボティックというのは、人型のロボットではなくて環境ロボットです。だから、机や壁が動いたりするものを指します。例えばVRの中で動き回るユーザに対してハプティクス(触覚)を壁型のロボット群を使って提供しようとしています。VRとロボット、もしくはメカニカルなコンテンツを足し合わせて、人の空間認識能力を高め、その結果として人の空間的なコンテンツの操作を支援したいと、そのようなポリシーを持って研究をしています。

永見: 壁が動くところは本当にリアルなハプティクスだと思います。場所によっては現実的に使えそうです。我々の研究との融合も考えられるので、一緒に研究することもあるかもしれませんね。

髙嶋: この技術はメタバースにも相性がよく、バーチャルアバタとのソーシャルタッチを再現したり、バーチャルホワイトボードでの筆記に使うこともできるでしょう。ほかにも空間を仕切るためのロボット群を作っています。これは、 高さと位置を変えられるパーティション型のロボットです。ユーザがパーティションを欲しいと思ったときに、手に持ったコントローラで空間をクリックするだけで、そこにパーティションロボットを好きな高さで自動的に配置できるシステムになります。

お子さんの問題行動をすばやく察知する取り組み

髙嶋: お子さんの問題行動のレベルを推定しようという取り組みも行っていました。これは東日本大震災後から3、4年間に、岩手、宮城、福島で幼児の問題行動のレベルが、ほかの都道府県より3、4倍上がってしまったことがきっかけです。なんとかして問題が起きそうな幼児を早期発見したいという取り組みです。お子さんが積み木で遊んでいる動きの中から、問題行動のレベルを推定しようというもので、ビデオ観察だけでなく積み木の中に加速度センサーを入れて動きの数値化もしました。現状の結果から言うと、6割ぐらいの精度で問題行動レベルを予測できる結果が出ており,親御さんたちによる早期発見のお手伝いができるのではと期待しています。もう少し続けたかったのですが、残念ながらコロナ禍で一旦停止を余儀なくされ、まだ再開できないでいます。

金平: 似たような考え方として、社内で退職する人の動きにはある程度特徴があると想定しており、通信頻度や遅刻回数、残業時間などとの相関関係を分析したいと考えています。幅広く考えたときに、先生の研究というのは、いろいろと応用できると思いました。

神田: 私の研究でも行動を認識する面から、怪我や病気の予測といった話をいただいています。その中で、自分が考える領域が技術の話ではなく病気の話になってくると、専門外なので自分はどこまで考えればいいのか悩むときがあります。

髙嶋: 私の研究の場合はカウンセラーが共同研究者にいて、お子さんの問題行動は臨床心理の分野で確立している数値指標で示された値を頼りに進めることができました。なので臨床カウンセラーの先生と私の役割は明確でした。

技術で効率化を目指すと忙しくなる矛盾

金平: AIにしてもそうですけれど、どんどん便利になっているはずなのに、孤独感や疲労感が溜まっていく状況が改善されず、むしろ増大しているように感じています。当社の役員もそのことを気にしており、その状況をなんとかする必要があると感じています。

吉澤: さまざまな技術を使って効率的になればなるほど、人間が忙しくなる矛盾みたいなものがあると感じていて。いま取り組んでいる研究は、極力文章量を少なくし、人間を楽にしたいという思いでやっていますが、またさらに忙しくなるんじゃないかという不安もあります。

髙嶋: すごく同意しますね。ほんと忙しくなりますよね。

吉澤: ChatGPTもやっていますが、非常にいろんなものが効率化される一方、その分また人間の忙しさが増す気もしています。どういうものを作れば、負荷が減る形で効率化できるのか試行錯誤しています。

髙嶋: あまり無理しない範囲で研究は進めるべきだと個人的に思っています。あまり先々を見てしまうと、追い求めることに意識がいってしまいがちです。やっぱり、その人が持っているデジタルへの素養や知識に合わせて技術を選ばないと忙しくなるでしょう。

社会課題の解決を目指し技術が人間を支える

永見 健一
インテック テクノロジー &マーケティング本部
先端技術研究所長

髙嶋: インテックではさまざまな研究テーマがありますが、どうやって決めているのでしょう。

永見: まず人の役に立つことを目的に、社会課題解決に向けて使える技術をテーマに選んでいます。今回の参加メンバーが取り組んでいるテーマもバラバラに見えますが、AIや VR、自然言語など、それらが1つに固まると、社会課題解決に向けて何か大きな力になると思っています。インテックとしての強みも活かして、外部とも共創しながら、研究者の興味があるテーマに取り組んでいければと思います。

髙嶋: 我々の最大のミッションはレベルの高いジャーナル等で論文を通すことであり、それがなかなか難しく研究が辛いと感じることもあるのですが、今回みなさんが生き生きと楽しそうに話されている姿を見て、すごく刺激をもらいました。

永見: こちらこそ、貴重なご意見をいただき、何か一緒に取り組んでいければと強く思いました。ありがとうございました。

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